Symposium2009

Visualizing Culturesインタビュー第2回

日時:2008年10月30日
場所:マサチューセッツ州ボストン、マサチューセッツ工科大学
語り手:マサチューセッツ工科大学VCプログラム・ディレクター スコット・シャンクさん
Scott Shunk, Program Director, MIT Visualizing Cultures
聞き手:松田咲(カーネギーメロン大学アーツ・マネジメント修士課程)
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− VCウェブサイトの具体的な機能と、デザインにおいて工夫していることを教えて下さい。

 VCは、研究主題ごとに画像中心の論文、資料解説、画像ギャラリー、そしてビデオ・アニメーションなどのページを組み合わせたユニットを構成し、ウェブ上で公開しています。現在計13のユニットが閲覧可能で、それぞれの主題に沿った様々な資料と情報をウェブ上で文字通り「探索」できるようになっています。
随筆論文に関してはアカデミックな文章が鮮やかな画像を取り囲むかたちで、読みやすさを優先させています。資料解説のページにおいて最もユニークな点は、画像イメージが水平方向に配置してあり、ユーザーが横にスクロールしながら画像を楽しめる点です。特に連続性のある資料(巻物、風刺画のシリーズなど)にはとても有効で、高画質のイメージと適度な注釈によって視覚的な理解を促し、その主題に対して「もっと知りたい!」と興味を掻き立てられるような内容にしています。
こうして、画像資料から興味を得た人が詳しい随筆論文のページへ、またその反対、と異なる切り口での情報へ自由に行き来することができ、いわばキャッチボールのような作用を通してより理解を深められると考えています。

この全体構造をデザインする上で重要視したのは、情報の提供においてユーザーに様々なアクセスポイントを用意する、ということでした。現代社会において、人々はあらゆる手段を通して即座に情報を得ることに慣れています。そのためVCのウェブサイト内においても、簡単に欲しいものが見つかるように様々な入り口を散りばめ、関連するコンテンツにすぐにジャンプできるような、情報の相互リンクに留意してきました。


− VCのプロジェクト・チーム、協力機関との関係など、VCの舞台裏について教えて下さい。

 チームは、私を含め5人です。メンバーは、創設者/総監督のダウアー教授と宮川茂教授、クリエイティブ・ディレクター、メディア・デザイナー、そして私は渉外業務やプログラム全体の監修を行っています。2002年にVCプロジェクトが発足する以前から、デザインに携わるメンバーとは長い間仕事仲間として働いてきたためチームワークはとてもスムーズで、皆が意見を出し合って、アイディアを共有しながらウェブ・デザインを考えています。
 また研究主題、教材作成、財源開拓などの面においてはそれぞれ学会関係者や専門家からなる顧問委員会を設置し、プログラムを充実させていくためのサポートを得ています。

 VCを運営していく上で、資料を保有する文化機関との強いパートナーシップは不可欠です。例えば「ペリー来航」のユニット制作には、日米の50の異なる文化機関からの協力を得ました。このときは先に主題が決まっていたので、とにかく関連しうる資料にアプローチして分析・吟味を加え、体系的な構造を組み立てていく、という方法でした。ただこのような方法は稀で、現在はだいたい機関ごとにまとまった資料を提供してもらい、そこからテーマを編み出していくことが多いですね。先日、中国の近代史に関する資料を、イェール大学の研究所からおよそ200GB分のデジタル画像集として送ってもらいました(画像一枚がおよそ50MG)。それを活用して、これから新しいユニットを建設していく予定です。



Scott Shunk 氏と彼のオフィス、通称 Visualizing Cultures Laboratory。
デスクトップパソコンが一台、歴史関連の本が並ぶ本棚、窓からは中庭が見えます。

Visualizing Culturesインタビュー第1回

日時:2008年10月30日
場所:マサチューセッツ州ボストン、マサチューセッツ工科大学
語り手:マサチューセッツ工科大学VCプログラム・ディレクター スコット・シャンクさん
Scott Shunk, Program Director, MIT Visualizing Cultures
聞き手:松田咲(カーネギーメロン大学アーツ・マネジメント修士課程)
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Visualizing Cultures(以下VC)は、文化機関などに保管されている資料をデジタル画像化し、 主に東アジア近代文化史の研究分野と結びインターネットを通じ公開することで、よりよい教育・研究に役立てる試みです。今回、マサチューセッツ工科大学VCプログラム・ディレクターのスコット・シャンクさんを訪ね、お話を伺いました。


− まず初めに、VCのプロジェクトが始まったきっかけ、VCが果たす役割と意義を教えて下さい。

 もともと創始者の一人であるジョン・ダウアー教授が、視覚メディア(写真・絵画・風刺画など)を通した歴史研究を専門とされていて、論文を発表する上で、インターネット上のウェブを用いることの効果性に着目したのが始まりです。イメージとテキストを自由自在に配置し、イメージ中心のナラティブを展開することができる、というのは従来のテキスト中心の学術論文では不可能なことでした。
そこから、様々なコンテンツを取り込もう、高画質デジタルイメージの利点を活用しよう、もっとたくさんの学者の協力を得よう、とチームでの、プロジェクト発展へのアイディアの模索が始まりました。

そうした経緯を経た今、私たちはVCプロジェクトの役割を、視覚メディア資料に適切な学術的文脈を与え、幅広いアクセスと活用を可能にすることだと考えています。特定の分野における様々な文化財・資料と、それらにまつわる歴史的背景の解説をダイレクトに結びつけ、視覚的に同時に提示することで、新たな社会文化史研究の可能性を切り拓いていけると信じています。

VCの果たす意義としては、このように画像イメージ先行型の人文研究(”Image-driven scholarship”)を可能にするということと、何より今まで入手・閲覧が困難だった資料も、デジタル画像化とオンライン環境のおかげで物理的な制約を超えた活用ができるようになったことが重要だと思います。例えば、一般的に博物館で展示されている資料は、実際の所蔵資料のうちの数パーセント程でしかない。展示場に訪れなければ見られないもの、訪れても見られないもの、そういった全てのものが、オンライン公開によっていつでも、誰でも、どこでも閲覧することができるのです。また、資料を高画質デジタル画像に取り込むことによって、肉眼で見るよりもさらにクリアに、細部まで拡大して観察することができるというのは、人文研究の場において大きな利点になります。


− このウェブサイトは主にどういった人たちの利用を想定していますか?また、認識を促すための宣伝などは行っていますか?

 大きく分けて三つのグループの利用者を想定しています。一つは、学者・専門家のグループ。VCを研究材料としてだけでなく、イメージ資料先行という新しい研究方法のモデルとして見てもらいたいと考えています。主に東アジア近代史という絞られた分野を扱っているので、学術的ネットーワークは比較的小さく、また権威と呼べるような多くの大学機関とは既に協力体制を築いているため、VCは広く認知されていると思います。ちなみにVCプロジェクトに関する論文も何度か発表しています。

二つ目のグループは、教育現場に携わる人たちです。現在VCのウェブサイトには15個のトピック別の資料ユニットが公開されていますが、そのうち半分には教育カリキュラムが用意されています。小学校から大学まで、様々な学習レベルと範囲に沿った教材を、先生が自ら組み立てて授業で扱えるように、それぞれ網羅的なものを提供しています。より多くの現場で活用してもらうために、VCチームは教育者対象のワークショップを年に何度か開いています。

最後に、一般のウェブ利用者です。そもそも私たちは対象グループを定めてプログラムを組み立てているわけではなく、より広く多くの人の利用を促進したいと考えているので、興味を持った人なら誰でも自由に活用できるようなウェブサイトにしています。
一番始めに完成した、「ペリー来航」に特化したユニットに関しては、大型のバナーに画像と文脈を出力した展覧会を様々な都市で開きました。このユニットは日米双方からの豊富なイメージ資料から成っており、2003年−2005年には日米友好150周年を記念して、外務省の協力のもと日本での巡回展を開くことができました。これらの活動は、VCのウェブサイトを知ってもらい利用を促すための、とても良い宣伝の機会になったと思います。



MIT人文科学研究棟内のMaihougen Gallery
壁には以下の引用が・・・
“A record, if it is to be useful for science, must be continuously extended, it must be stored, and above all it must be consulted.”


シャンク氏とVisualizing Cultures ウェブサイト